ある方からメールをいただきました。
内容は・・・一般大学卒なのですが、ある音大卒のピアノの先生のレッスンを受けた時
「あなたのショパンは基礎がなっていない。音大卒でないので素人的な演奏。ショパンをもっと上手く弾きたければまずバッハを勉強し直した方が良い」
と言われたそうです。
やっぱり音大でバッハを勉強することは重要なのでしょうか?という質問でした。
この話を聞いた時、
「あるある音大卒自慢のドアホ先生だなあ・笑」と思ったものでした。
この手の話、実はよくあります。でも一般的に音楽をよくわかっている人ならこういう話はしないでしょう。
私も若い頃、音大卒ということを言わずにヤマハのグレード試験でショパンエチュードを弾いたら試験官から「もっとバッハにベートーベン、ブラームスをしっかり勉強してからショパンのエチュードを弾いてください。あなたは多分これらの作曲家をまともに弾いてこなかったでしょう?ミスがないだけではダメです」と言われて思わず苦笑したものです。
では音大とはなんなのか?
この辺りを詳しくお話しします。
1.音大でなければ勉強できないことがやっぱりあるのか?
2.バッハをマスターしないとショパンはやっぱり弾けないのか?
3.音大に行ったら全てが習得できると思ったら大間違い。
4.良い演奏ってどうやって作り出すの?
5.ショパンピアニズムって何????
6.ジャズ、ポップス、ラップ、パンク・・・これらを音大で学びたいなんて人いるだろうか?
1.音大でなければ勉強できないことがやっぱりあるのか?
まず、音大を出ていないピアニストって・・・意外と大勢いるんです(汗)。
海外には昔ならばたとえばヨーゼフ・ホフマンがいますが、もちろんこういう人は幼少から神童扱いだったので例外かもしれません。
つまり”天才”と言われているのならば当然だと。
では・・・日本でいう”角野隼斗(カティン)”や”赤松林太郎””上原彩子”はどうでしょうか?
2021年のショパンコンクールでは確か現役医大生が出場していたと思います。
彼らが天才かどうかは世間が決めることですが、どちらにしてもホフマンも日本人も音大は出ていません。
ですが別に出ていなくてもピアニストは免許制度ではないのでプロのピアニストにはなれます。
ピアノがうまければ。
では・・・音大って何を勉強しているのでしょうか?
実は・・・
大した授業はやっていません(汗)
そのほとんどは何も音大に行かなくても自分で書物を買って勉強できることがほとんどです。
唯一、たとえば”和声学の実習”や”合唱実習、合奏実習”ともなれば確かに音大ならではの授業かもしれません。
しかし和声学の実習が本当にピアノを弾くにあたって必要不可欠な内容なのか?
今現在、私が和声の実習課題を解けるか?と言ったら・・・間違いなく解けません(汗)。
それぐらい”和声学”という授業はピアニストにとっては、どうでも良い内容です。
合唱実習、合奏実習は確かに勉強になることは多いです。
しかし、地域でやっている合唱隊に入って良い指揮者が講義をやっているを受ければ、多分同じ内容でしょう。
同じく地元のオーケストラに入っていれば合奏実習は同じ内容だと思います。
ちなみに私は”合奏実習”はやっていません(汗)。
でもそんなのやらなくても勝手に歌やバイオリンの伴奏、3部合奏などをやれば同じだと思います。
音大で一番重要な授業はなんと言ってもピアノレッスンだと思います。
ですが・・・何もピアノレッスンは音大でなければ受けられないわけではありません。
もちろん音大に行くと、同じ目標を持った仲間がいるので、良い刺激が受けられて切磋琢磨できるとは思います。
ですが・・・所詮ピアニストは”孤独”な音楽家です。
一人で勉強することが多い上に、刺激が必要ならば、日本ではなく、海外のマスタークラスや留学に行く方がよっぽど良い刺激になります。
結果・・・果たして音大卒でないと獲られない物があるのかどうか?
それは・・・多分音楽仲間ぐらいでしょう。
2.バッハをマスターしないとショパンはやっぱり弾けないのか?
いやそれはないでしょう(笑)。
こういう文句言葉ってよく聞くんです。この業界では。
「バッハにベートーベンを全部やらないとショパンは弾けないからあなたはまだまだショパンは弾けないわよ。ダメよまだ」
って。
それって・・・
その先生が多分ショパンが苦手で弾けなかったと思うんです(汗)。
業界ではショパンは苦手、という先生って意外と多いんです。
理由は・・・ショパンは本当に音楽表現が難しいんです。
リストは意外と表現が楽なことが多いんです。大雑把に弾いてもサマになるというか・・・。
それって・・・まあ確かに音楽の作りも時に大雑把な時もあるんですが・・・
リストとショパンの違いは・・・ショパンはとにかく細かい表現が多いんです。
それだけショパンは凄く練られてよく考えられて作られていると思うんです。
それだけ曲に込められたものが多いんです。
ただだからと言って・・・
リストがよくできていないわけではなく、リストのすごいところは演奏効果が絶大な曲作りなんです。
あんまり苦労しなくても、いとも楽に演奏効果が出やすいように作曲されているんです。
それはそれですごいことだと思います。
とにかくショパンは難しい。どうやってその表現を出したら良いかというと・・・
物理的には究極な細かい音量の変化が最終的には必要になるんです。
さて・・・本題です。
バッハとショパンの関係性ってなんでしょう?
多分・・・対位法ではないかと思います。
バッハは多声部で動く曲です。何声部もあったりする。その各声部のバランスをいかに生かして全ての声部を表現するか?
そういう勉強をすると確かにショパンの中の対位法的な部分はよく理解できて表現ができると思います。
でも・・・バッハの本当の良さは・・・フーガだと思うんです。
そのフーガの内容は・・・ショパンの中には・・・ありません(汗)。
確かごく一部、幻想曲とかマズルカのごく一部にフーガっぽいものはあります。
でもフーガっぽいだけですよ(笑)。完全なフーガではありません。
ショパンはなんでもマジョルカ島に行く時にバッハの平均律曲曲集を持参したという逸話が残っていますが(私には考えられない。私だったら猫とバイクを持って行くでしょう)
そもそもショパンの曲の中にはほとんどフーガというものは感じられない。
なのでバッハを勉強したから、ショパンが弾けるかと言ったら・・・それはそうではないと思います。
そんなに単純じゃない。
もしバッハの対位法を勉強してショパンを弾くのだったら・・・インベンションかフランス組曲を勉強するだけで十分だと思います。
もしバッハのフーガも含めて勉強しないとショパンが弾けないとしたら・・・
ドイツ人のピアニストがショパコンの3次予選および、ファイナルコンチェルトを全て独占するはずです。
しかし近年はドイツ人どころか・・・ロシアピアニズムの(?)ロシア人もほとんどいません(笑)。
むしろ、ショパンの難しさはあらゆるショパンらしい音楽性を所有することです。
こればかりは・・・ショパンの曲を全曲聞いたり、片っ端からショパンの曲の特徴を弾いて確かめる必要性があります。
つまり・・・ショパンを弾けるようになるんだったら・・・
究極にショパンを分析、理解して勉強することです(笑)。
バッハは・・・あんまり関係ない。
昔、私が現地ポーランドでレッスンを受けた時の話です。
曲はマズルカでした。
レッスン室の外は林に囲まれた環境で鳥の声、散歩する犬の鳴き声、木の葉がそよそよざわめく音。
とても良い環境で・・・と言っても日本でもこういう環境はあるとは思うのですが・・・
「マズルカは自然の中で作曲されたの。鳥の声、犬の鳴き声、木の葉の風にざわめく音・・・それら全てがこの曲に入っているの。自然の音をよく聴いて!」
と言いながらそのポーランド人が弾くマズルカは・・・完全に窓の外の聞こえる素朴な音、そのものなんです(汗)。
不思議な感じでした(汗)。
ショパンを弾きたければ・・・ショパンを勉強することです(?)。
3.音大に行ったら全てが習得できると思ったら大間違い。
音大に行ったら全部大学が教えてくれる・・・これは大きな間違いです。
正直、音大は何も教えてくれません。そう・・・自分で探すしかないのです。
ある程度のきっかけやヒントは啓示されます。
何を勉強したら良いのか?何が自分は欠けているのか?何が本当は大事なのか?
しかしこれらは先生たちが教えてくれるのではなく、自分自身が「そうではないか?」と感じることです。
何も感じなければ・・・そのまま4年間が過ぎてしまいます。
逆に言えば・・・こんなこと、音大に行かずに一人で勉強していても多分感じるはずです。
ある程度外の公開レッスンや演奏会、本を読めばそう感じるはずです。
私自身は日本の音大に行くぐらいだったら、海外にいきなり留学してしまった方が良いのではないかと思っています。
正直、あまり日本の音大が提供してくれる知識はあまり良質と思っていません。
日本と海外の講師のレベルの違いは歴然で、私はあまり日本の音大にそれほど価値を見出してはいません。
どうして今でも日本が音楽的に良くないことを指導しているのかはわからないのですが・・・・
一方で日本の某奏法一派の代表は海外留学をするべきではない、という人もいます。
これも私は全く理解できません。
日本の音大に行く意味はそれほどあるとは思っていないのですが海外への留学は色々と勉強にはなると思います。
4.良い演奏ってどうやって作り出すの?
ショパンらしい演奏ってどうやって作るのか?
ここで業界ではなぜか”美しい音で演奏する”ために特殊なタッチで弾けば良いという間違った考えが蔓延っています。
良い演奏、美しい音を出すのにタッチだけでどうにかなるほど、ピアノは簡単ではないです。
逆にタッチという言葉ほどいい加減な言葉はないと思って下さい。
ではショパンらしい演奏とはどうやって作り出せば良いのか?
これはもう、あらゆるショパン弾きを聞くしか方法がありません。
ショパンの音楽を表現するには非常に細かい表現が必要なのですが、そのために想像を絶する音量の変化が必要になります。
そしてその音量の変化がさまざまな音色の変化を生むことになります。
ただし、では単純に音量の変化に差をつければ良いかというと、そうではないのです。
業界では「デュナーミクをつける=音量の変化をつける」という言葉あります。
しかし言葉で書けば簡単なのですが、ではどうやってどの程度の音量変化をつけるのか?ということになってしまいます。
ここには定義は一切ありません。
かといって決して音大に行けば良い、習得できる、という発想にはならないと思っています。
私が最もショパンを理解する近道はおそらく、良い演奏を多く聴くことだと思います。
こちらには非常に良い演奏が多くあります。
またショパンコンクールの演奏動画もあります。
これらを参考にして下さい。
ショパンの演奏をどう作りたいのか?ここの動画を聞くだけで十分です。そしてここから全てを取り入れることです。
私はショパンという音楽をまず最初に、大学の時に就いたハンガリー人の先生からレッスンでかなり学びました。
卒業後も頻繁に個人レッスンをうけてきました。
レッスンを受けるという点では必ずしも音大に行く必要性はなく、プライペートレッスンを受ける、という選択肢もあると思います。
これらのことを考えると決して日本の音大に行くことが重要ではないことはわかってもらえるかと思います。
5.ショパンピアニズムって何????
ショパンピアニズムというものは、正直、それほど複雑かつ濃い内容はないですし、そもそも世界的にも存在しない”ショパンピアニズム”という言葉は使うべきではないです。
もちろんショパン独特の解釈、楽譜の読み方はあるかもしれませんが、それは他の作曲家同様、じっくりショパンの曲に何曲も向かい合ってくれば自ずとわかると思います。
加えて、同世代のリストやシューマンを理解すれば、ショパンも自ずと自然と理解できる様になると思います。
特にリストとショパンの関係性はなかなか深いものがあるので、ショパンを理解したければ同世代のロマン派のリスト、また彼を参考にしたと思われるラフマニノフやスクリャービンも逆の発想で習得してみるのも良いと思います。
またポーランドからは”エキエル原典版”という楽譜が出ていますが、その中に演奏法の別冊が入っているのでそれを読むことを強く勧めます。
ショパンのピアニズム(というよりショパンの音楽性)はそれほど怖がって難しいと考える必要はありません。
自分で曲を弾いてみて、そしてショパン協会主催のコンクールのyoutubeで参加者の演奏を聴く。
これで自ずとショパンの音楽性は理解できてくると思います。
あとは自分が理解できる、もしくは好きな曲のみまずは弾いてみること。
好きだったり理解できる、ということはすでにあなたはショパンを手中に収めているのと変わりません。
ショパン自身はそれほど難しい考えで作曲していなかったことに、ショパンの曲を弾けばわかる様になるでしょう。
6.ジャズ、ポップス、ラップ、パンク・・・これらを音大で学びたいなんて人いるだろうか?
よく考えて下さい。
これらの現代の音楽を音大できっちり学ぶ人いますか?またきっちり学ばないと音楽が作れないでしょうか?
多分、現役で見よう見まねでいろんなプロの演奏を聞きながら、自分なりに音楽を作り上げていると思うのです。
そしてその音楽は自分の中から出てきた音楽を表現するはずです。
ビートルズのコピーであっても、それはビートルズの音楽から感じた音楽を誰から説教されることなく(?)表現しているはずです。
どうしてクラシックだけ音大でなければ勉強できないのでしょうか?
ベートーベンは音大を出ていません。
ショパンはワルシャワ音楽院を卒業していますがすでに20歳でコンチェルトを作っています。
これらが”天才”というのではなく、もう若い頃から身から湧き出てくる音楽を表現していただけなのではないかと思っています。
逆に音大を出たから・・・全てのクラシック音楽が演奏できる・・・ほど甘くはないとお考え下さい。