楽譜出版会社の選び方

原典版の定義

あなたはこの曲をご存じですか?

ピアノをたしなんでいる方ならば誰もが知っている、モーツァルトピアノソナタkv545第1楽章です。

この曲の楽譜がもしお手元にあれば、ご覧になって下さい。様々な強弱記号(f,p,cresc,dim, >←アクセント)が書いてあると思います。

しかし、その書き込みはすべて嘘なのです!

実は本物の楽譜には、強弱記号は何一つ書いていないのです!

これはどういうことか?

当時モーツアルトが出版会社に出した楽譜には音符しか書いておらず、強弱記号はいっさい書かれていない状態だったのですが、おそらくモーツアルト自身は、強弱は奏者が考えて付けてくれるだろうと思って、あえて書かなかったのだと思うのです。

しかし、ある程度の音楽家ならいざ知らず、一般の人はこの曲をどう弾いて良いのか、分からない人は多いはずです。

そこで、出版会社が丁寧におそらくこうであろうという推測を元に、楽譜に強弱記号を書き加えたのです。

それが現代の、例えば皆さんが所有している、音楽の友社や春秋社(ハードケースに入った白い本)なのです。

しかし、その強弱記号は時には出版会社の編集者の好みにより、付けられてしまう可能性があるために時にはあまり良くない強弱記号がある場合があります。

ここに書いてあるフォルテは本当にモーツアルトが書いたフォルテなのか?それとも編集者が勝手に書き加えたフォルテなのか?

・・・もし、編集者が勝手に書き加えたフォルテで、しかもその編集者の個性が自分とあまりマッチしない人だったとしたら・・・

そのために、作曲家が書いた事だけを載せた楽譜が欲しくなるのです。

それが、原典版というものです。

原典版は作曲家が書いた事だけしか書いていないので、すべての記述は信用出来ます。

従って、一応なりとも書いてある事は最低限守らなければいけないわけで、もし仮に記述があまり気に入らない場合、それを守らないで自分なりの演奏をしている場合、その守ってはいないという事を自分自身が認識した上で演奏する事は大事な事なのです。

原典版の種類

ヘンレ版・・・ドイツ製。薄紫色の本。

長所・・・原典版の大御所で、ほとんどの作曲家の原典版を備えている。データは非常に信用がおける。

また、総じて、音符は余裕を持たせて書いてあり、とても見やすく、また書き込みをするスペースも充分にある。

見やすさはすべての出版会社においてはナンバー1。

短所・・・価格が高い。また、指使いは大柄な外国人の大きい手のための指使いで、手の小さい日本人向きとは思えない部分がたまにある。

また、指使いはあまり多くは書かれてはいないし、どちらかというと乱暴な指使いが書いてある事もある。

ウィーン原典版・・・真っ赤な本。

この本は日本の音楽の友社が版権を買って日本製の楽譜として売りだされている。

長所・・・日本から出版されているだけあって原典版の中では比較的に安値である。

また、指使いはとても多く書かれており、かつ手の小さい日本人にとって使いやすい番号がついている。

主に輸入版は製本が弱く、壊れやすい場合が多いのですが、このシリーズは日本製なので丈夫です。

短所・・・出版数はヘンレ版に比べるとやや少なく、すべての作曲家の楽譜があるわけではない。

また、ヘンレ版と比べると、多少圧縮されて音符が込み入っていて見にくい場合もある。

ペータース版・・・ドイツ製。草色の本。

長所・・・原典版ではなくとも、編集者が書き込みをした内容はカッコでくくってある場合があり、区別がつきやすい。

総じて、音符は余裕を持たせて書いてあり、とても見やすい。

短所・・・製本の強度がいまいちで、壊れやすい。また、昔は非常に安値であったが最近はレートの関係?で日本では値段が高くなった。

パデレフスキー版・・・ショパンの楽譜といえば、これです。

近年はライセンスをヤマハが取得して出版しているので、ヤマハ出版のパデレフスキーが安値で日本製なので丈夫でお勧めです。

ショパン、エキレル版について

この原典版は、いろいろと世間を騒がせており、様々な意見がありますが、私は内容の真偽よりも、書き込みの指使いや、弾きやすい方法を考えた内容の方を重要視します。

ショパンの作品は当然ながら弾きにくい難曲であり、そういう面から、このエキレル版はどうやったら弾きやすくなるか、という面で重要な資料を提供しているので、大変貴重な版と考えています。

日本の出版会社・・・最近でも様々な原典版が日本の出版会社から出ています。

いずれも良質な製本と価格、内容なのでお勧め出来ます。


解釈版の定義

原典版が作曲家の書いた事のみを載せるのとは違って、演奏者がどう弾いたら良いのか、迷った時にある程度の導きのために、とりあえずさらに表現を書き加えた楽譜、それが解釈版です。

解釈版は特に独学で勉強している人にはとても良い参考書ですが、逆に、指導を受けている先生との解釈が違った場合、ちょっと面倒にもなるので、音楽関係の学校受験を想定している人は解釈版を使う時には注意が必要です。

また主に解釈版だけを使ってしまうと、その記述が本物なのか、分からないので、本来はなにかしらの原典版との併用で使うのがベストではあります。

また、どこの出版会社かは言えませんが(ヒントはブルー)、原典版とまったく違った音符、強弱記号、ないはずのスラー、タイなどが書いてある事もあり解釈版のみを持っている事は場合によっては危険な場合もある。

自分で買う時には是非、一度先生に相談をしてから買う事をお勧めします。

解釈版の種類

全音・・・青い本

長所・・・非常に安値で手に入れる事ができる。また比較的音符は見やすい。

また解釈は豊富に書いてあるので大変参考になる・・・ですが原典版を持っていないとそれが仇となる場合もある。

春秋社版・・・ハードケースにはいっている白い本

長所・・・指使いが手の小さい日本人用に書いてある。また指使いが多数書かれており、指使い記述においてはナンバー1。

製本が非常に丈夫で、ちょっとやそっとでは決して壊れない、金庫の様に丈夫。

また、輸入楽譜にくらべると安値である。

解釈は非常に大多数意見的で妥当な場合が多く、非常に優良な解釈が多い。

日本ではこの春秋は、音大関係では何故か敬遠されているのですが、原典版との併用においてはすばらしい参考書になると思います。

短所・・・重い!(丈夫だから仕方がない)

原典版と比べると明らかに間違いと思われる部分は残念ながらいくつかある。

指使いにおいては豊富ではあるが時としてあまりふさわしくない番号も時にはある。

コルトー版・・・フランス、salabert社から版権を全音が買って日本から出版している。コルトーというピアニストによる解釈版

長所・・・コルトー独特の解釈が読めてなかなか面白い。

これ以外にも解釈版は多数あります。特に輸入版は、様々な音楽家による解釈版がでており、大変参考になると思います。

ただし、あくまでも原典版との併用をお勧めいたします。

私が薦める楽譜の使い方

私自身が勧める楽譜の選び方はこうです。

  1. まず春秋社、井口●成版の楽譜を買う
  2. 必要になったら、何らかの原典版を買う

一般にピアノ教育や音大ピアノ科の世界ではなぜか、春秋社井口●成版は毛嫌いされている傾向があります。その理由としては、おそらく原典版とくらべると、間違っている記述、よけいな記述があるという事からだと思われます。

たしかに、その可能性は否定出来なくもないのですが、しかし春秋社、井口基●版でしかない要素もあります。それは、とても丁寧かつ豊富な指使いの記述です。

一般にピアノを弾く人にとって、指使いほど悩ましい事はありません。原典版では異常に難しい指使いが書いてあるのに、春秋社版ではいとも簡単に思いつかない指使いを記述している事がとても多い。

私はまず、最初に春秋社版を買って、その次に本人が楽譜に書かれている記述が本物かどうか、確かる必要性が出た時に原典版を買う事をお勧めします。

もちろん、初めに原典版を買って必要性が出たら春秋社、井口●成版を買うという方法もあると思います。

どちらにしても、研究が進むと原典版と、解釈版の両方が必要になると思います。