私は仕事上、あまりコンサートに出掛けられません。
なんせコンサートの時間帯は仕事中なので(汗)。
そういう「お水」関係の仕事勤務時間帯ではありますが、時々1年にわずかに休みを入れてコンサートに行くことはあります。
本当にごくわずかに行くだけですが、その中で気になったコンサートがあったので行ってきました。
アレクサンダーコブリン alexander kobrin
現代ではあまり知っている人はいないかもしれません。
2000年のショパコンの時にユンディリーが1位の時に3位に入っていた人です。
コンサート自体は直前にも関わらずチケットは余っていたので行けたのですが、通常人気のある人ならチケットは売り切れです。
じゃあこの人は上手くないのか?と言ったら・・・それはないです。
私も若い頃、この人の人気が旬な時に聴きに行きました。
もちろんその時も「うまいなあ」と思いましたが・・・
あの頃の30代の頃の私と今の私とは決定的に違うものがあります。
今ではどうやってピアノを弾いたら上手く弾けるかはわかっています。
もちろんわかっているから実践的に上手く弾ける・・・訳ではありません(笑)
道理はわかってもそれを実現することは至難の業で遠い道のりです。
それがピアノ演奏。
ただ若い頃は上手い人の演奏を「どうやってああいう音とか演奏ができるんだろう?」という謎はありました。
誰もが謎として捉える例えば
「音色」
これは今ではよくわかっています。あとで全部説明しますが・・・
しかし・・・
某教育連中はそれを
「某極寒国家の音大には国家機密奏法があるから、ああいう音が出るんだ!」
と盛んに世間に訴えかけているようです。
それを「ロシアピアニズム」と言っているようです。
ロシアピニズムについて
ではロシアピアニズムとはなんなのか?
某教育連中は「ロシアにて発明されてさらに開発されたロシアだけの奏法である」と言っていますが・・・。
これについてはコブリンは書いています。
「ロシアピアニズムの源流は結局はリストに辿り着く」と。
これが正解です。
リスト、さらに加えてショパンもロマン派の曲の演奏、テクニック、音楽表現、それらを開発して発展させた人たちです。
おそらくピアノを引っ張ってきた張本人たちはこの4人だったと思います。
それをソビエトで引き継いだ一人がネイガウスです。
ソビエトでは国家をあげてピアノ教育をさらに発展させたことは本当です。
某教育連中はネイガウスという教育者が全ての創始者、元祖と言っているようですが・・・
ネイガウスがピアノ教育についての本を書いたのは事実ですが・・・それすらも実はネイガウスの師であるゴドフスキーが言っていたことをネイガウスが引き継いで本にしたとヨーロッパの業界では言われている次第です。
コブリンの演奏、音色について
さて、コブリンの演奏はどうだったのか?
彼の演奏はとても美しい音だったと思います。
そして非常に品の良い、上質な音楽性だったと思います。
決して荒々しい音を出さない音でした。
そして音色に関しては非常にこだわりを持っていたと思います。
しかしこれが果たして日本で言っている「ロシアピアニズム」というのか?
ロシアにはさまざまな演奏家が大勢います。
それこそ
こういうネイガウスの孫のショパンとはかけ離れた酷い演奏をするブーニンの演奏や
こういうパワーで押し切るだけの演奏家もいます。
そもそもどうしてネイガウスの孫のブーニンがこのような演奏で1位を取ったのかは謎で、おそらくソビエト政府とモスクワ音楽院の圧力があったのだろうと言われていますが。
これら全てをひっくるめて「ロシアピアニズム」というのはいささか乱暴なひっくるめ方です。
私は思うに「ロシアピアニズム」という言い方よりも、コブリンの師匠であるナウモフの
「ナウモフピアニズム」と言った方が正しいのではないかと思います。
またさらにナウモフの弟子であっても
のような???な演奏をする人もいます。
結局、誰についてた、もしくはどこの国のピアニズム・・・と言ってもその人それぞれでさまざまなので、あまり「ロシアピアニズム」という言い方は的を得ていません。
この辺り、「ロシアピアニズム」という言い方は漠然としています。
ロシア奏法と音色について
また某教育連中はロシアには独特の奏法が存在していて、それが美しい音色を発生させている、というのですが・・・
例えば
ロシア奏法には弾いた後で鍵盤の近くの空気を手でかき混ぜる仕草をすると、音色が変わる。さらにホールにいる聴衆100人が、その動作をしただけでピアノの音色が変化した!という証言を得た!。
と某教育連中はyoutubeで述べているのですが・・・。
そんなことは全くなくて(笑)。
そもそも私がコブリン(kobrin)の演奏を聴いてその音色の美しさは何が原因なのか?を判断した場合、それは・・・
結局は音量バランス、業界では鍵盤の速さ(velocity speed)による音色の変化と世界では言われていますが、それに尽きます。
各音量のバランス(鍵盤の速さ)を絶妙にコブリンは行って、あれだけの美しい音色と非常に上質な音楽の進め方を持って発生させたと言う結論になります。(もちろん、それに加えて音楽の進め方も重要です)
そこには特殊な奏法をしたから音色が変わったのでもなく、またこの団体が力説するように
アクションのハンマーシャンクがしなって音色が変わる
と言うのも馬鹿馬鹿しい話です。
美しい音色で弾くピアニストは何もロシア人のみではなく、あらゆるヨーロッパには美しい音色で弾くピアニストは大勢いますし、その人たちの奏法がロシア人と違うのかと言ったらそれはないと思います。
ロシア奏法というものは存在しない
そもそも私自身は
ロシア奏法というものは存在しない
という意見です。
ロシア人などの奏法とヨーロッパやアメリカ人の奏法に果たして違いがあるのか?
これは100%ありません。
おそらく、業界では重量(重力)奏法がロシア奏法という意見なのでしょうけど、実際は重量(重力)奏法自体、そういうネーミングすら世界にはありません。
そもそも同じロシア人であっても、その人それぞれの考えがあって同じ奏法になることはまずあり得ません。
私の師であるJanos,Cegledyはレシェティツキーの孫弟子ですが、果たしてレシェティツキーそのものの奏法かはわかりませんし、私自身もJanos,Cegledyから奏法を学んだ上で自分なりにJanos,Cegledyとは多少違った奏法を構築し直して指導しています。
たとえ重量奏法であっても一人一人の奏法は若干違いますし、もはや腕の重さを利用して脱力を心がけて弾くことは世界の常識、スタンダードであるだけの話です。
コブリンは比較的指を立てて弾いていた。
某教育団体は「ロシア奏法の特徴の一つに指を常時寝かせて特殊な音色を発生させている。これこそロシア奏法の国家機密奏法である」
と言っていますが・・・
この動画をご覧になればよくわかりますが彼は当日、ほとんど指を立てて弾いていました。
指を寝かしたらどうなるのか?立てたらどうなるのか?
それを科学的に解明すればこういう発言にならないし、コブリンのように指を立てることを好むロシア人もいます。
寝かす、寝かさない、・・・それは道理、科学的解明ができていればどうでも良いことです。
もちろんソビエトではそういう指導(常時指を寝かす)はしていませんでした。
ロシアピアニズムとは
ソビエト時代に国家をあげてモスクワ音楽院でピアノ教育においてカリキュラム的に行われていたことは事実です。
それはネイガウスの本を読めばわかります。
ピアノ曲のアプローチはどうしたら良いか?それをあの本は説いていますが、その音楽教育の内容と奏法は全く関係ありません。
ただ、それを1個人がやっていたか?それともオリンピックのように国家が主導して国家予算を莫大にかけて国が教育を支援していたか?の違いはあるとは思いますが。
ロシアピアニズムという内容は精査すればするほど、それはどの国の音大であっても各教授が行なっていただけで特別に意味はない、という結論に達するようです。
もちろん
ロシアンピアニズム、というロシアの作曲家の曲の解釈という言葉ならば理解できますが。
これがロシアピアニズムの正体です。
自分は〇〇〇イズムとか誰かの弟子であるとか言う前に
よく考えて欲しいのですが、ホロヴィッツやモイセイビッチ、リパッティ、またはピアニストとしてのラフマニノフやコルトー・・・
これらのピアニストの先生は誰ですか?そしてどこの国ですか?
そんなこと、考えたことはありますか?
コルトーの先生は?出身国は?
モイセイビッチの先生は?
ラフマニノフの先生は?
そんなの誰も知らないですしどうでも良いことです。
どこぞの国のイズム???
ではホロヴィッツとモイセイビッチはどちらもウクライナ出身であり、ホロヴィッツ、モイセイビッチ、ラフマニノフはキエフ音楽院卒ですが、3人とも全く同じ演奏ですか?
ホロヴィッツもモイセイビッチもラフマニノフも全く違います。
ラフマニノフもコブリンも同じロシア人ですが、どちらも全く違う演奏です。
フランス人のコルトーとリパッティも同じです。
アラウとバレンボイムは南米出身ですが全く違う演奏家です。
イズムや国の名前を論ずる前に、そのピアニストそのものを観察した方が良いです。
その個人がイズムであって、それはロシアも師匠も関係ありません。