ロシア奏法と重量奏法(重力奏法)はどう違うのか?
日本ではロシア奏法・ロシアンピアニズムという言葉をよく聞きます。
一方で重量奏法(重力奏法)という言葉も聞きますが
ロシア奏法とどこが違うのでしょうか?
- 実はロシア奏法と重量奏法(重力奏法)は全く同じであり、ロシアで重量奏法が”ロシア奏法”という名前に変わっているだけの話。
- 「ロシアンピアニズム」という言葉は誤解されて使われている。
- 私が日本のロシア奏法の正体を突き止めようと思ったきっかけ。
- 私が指導する重量奏法(重力奏法)について
- 重量奏法(重力奏法)とロシア奏法のルーツについて
- 重量奏法(ロシア奏法)の父、T,レシェティツキーとは?。
- L,ゴドフスキーはT,レシェティツキと同じく、ソビエトのテクニックや音楽教育に大きい影響を及ぼしたキーマンです。
- ロシアの重量奏法(重力奏法)は西側のL,ゴドフスキーとT,レシェティツキが先に導入したのであってソビエト独特のG,ネイガウスが発明したテクニックではない。
- L,ゴドフスキーによると1900年代初頭にはすでにヨーロッパ中において重量奏法(重力奏法)はかなり流布していた。
- L,クロイツアーというピアニストについて
- W,ギーゼキングというピアニストについて
- 日本での一部の某奏法指導者は現地ロシアやヨーロッパで指導している重量奏法(重力奏法)とは全く違う独自の(屈筋、虫様筋等)筋力メソッド=筋力奏法なので要注意。かつ理解不能な奏法を指導しています。
- 歴代の本物の現地ロシア奏法指導者は音色の変化はタッチの違いで出るのではなく、音量の変化によるものであると公言しています。
- 人間であれば最後は必ず重量奏法(重力奏法)に行き着く
1.実はロシア奏法と重量奏法(重力奏法)は全く同じであり、ロシアで重量奏法が”ロシア奏法”という名前に変わっているだけの話。
なぜ、現代ではロシア奏法と重量奏法(重力奏法)と区別しているのかはわかりませんが、結局は同じです。
ちなみに重量奏法=重力奏法です。これも変わりません。
こちらをご覧ください。
こちらは海外サイトの重量奏法(weight of the arm paying)の指導内容です。英語なのでわかりにくいのですが、自動翻訳で英語を読んでいただければわかると思いますが、そうでなくても動作を見れば大体予想がつくと思います。
こちらは「ロシアンメソッド」と言われているロシア奏法のyoutubeです。
これも英語ですが、動作を見ていただければ大体わかるとは思いますがほぼ重量奏法のビデオとなんら変わりありません。
大事なことは全く力入れないことです。この点では二人は全く同じ理屈です。
正直、ロシア奏法と、重量奏法(重力奏法)は全く同じと考えて差し支えありません。
ではなぜ別々の名前が存在しているのか?これは後ほど、歴史のルーツで説明いたします。
2.「ロシアンピアニズム」という言葉は誤解されて使われている。
ロシアンピアニズムの本来の意味はロシア作曲家の作品をどう弾くか?という解釈法です。
ですが日本で使われている「ロシアンピアニズム」はあたかもロシアだけの奏法、演奏法を用いて他国にはない優れた演奏手段でどんな作曲家の曲もうまく世界一、弾きこなす技の研究と日本では言われていますが、それは大きな間違いです。
どちらかといえば、そういう場合はロシア国内のテクニック指導つまり
「ロシアンメソッド」
と言った方が正解です。
つまり
「ロシアンピアニズム」=ロシア人作曲家の作品の演奏解釈法。
「ロシアンメソッド」=ロシア国内においてのテクニックを含めた教育法
という意味で言葉を間違って使っています。
3.私が日本のロシア奏法について調べようと思ったきっかけとは?。
かれこれ20年前から世間で「ロシア奏法」なるものがインターネットの情報で存在していることは知っていました。閲覧してみると自分の奏法と似ているなあ、と思っていたのですが、ある時期から私のところにロシア奏法についての問い合わせが殺到し、その人たちの全てが
「某教室の某重量or脱力奏法、もしくは某ロシア奏法が理解不能でついていけない」
という内容でした。
また実は某教室から流れてくる生徒がいたのですがその人たちの中に、奏法の関係上、筋肉痛、腱鞘炎やジストニアを発症してしまった人がいました。
といっても私はその「某重量or脱力奏法、もしくは某ロシア奏法」というものを知りません。聞いてみると、聞いたことがないことばかりで・・・しかし、ややオカルト的な話もあったので、一つ、その「某重量、もしくは某ロシア奏法」というものが何なのか?調べてみようと思った次第です。
果たして「某重量or脱力、もしくは某ロシア奏法」というのは私が習った重量奏法(重力奏法)とは違うのか?という疑問です。
4.私が指導する重量奏法(重力奏法)について
一応名前としては重量奏法(重力奏法)と、書いてありますが、実はこの名前は国際的は存在しません。多分この名称は日本だけです。おそらく「ロシア奏法」という言葉も日本だけです。海外で聞いたことはないです。
ですがこのいわゆる”重量奏法(重力奏法)”というものは大学時代に恩師Janos Cegledyから習いました。
もちろん先生は重量奏法(重力奏法)などという言葉は使ってはいません。
ただJanos Cegledyの3代上の先生である
“T,レシェティツキー”の流れであるということは知っていました。
私は当初、なかなかこの特殊な奏法の習得に苦しみ(笑)最後には諦めたことを覚えています(汗)。しかしその後、自分で教室を立ち上げた時、もう一度自分で再度研究をして、ようやくおぼろげに習得しかけてきました。恩師に出会ってすでに10年が経とうとしていました。
それぐらいこの奏法の習得は難しいものがあります。
5.重量奏法(重力奏法)とロシア奏法のルーツについて
重量奏法(重力奏法)とは一体誰から始まったのか?
これははっきり「自分が重量奏法(重力奏法)を発明した」という文献はありませんが、おおよそこの人たちが伝授していったというのはわかっています。
F,ショパン、F,リスト、T,レシェティツキー、L,ゴドフスキー
この4人が当時のヨーロッパで大きく重量奏法(重力奏法)の流布、発展に努めたのはわかっています。
6.重量奏法(ロシア奏法)の父、T,レシェティツキーとは?。
このレシェティツキーという人はピアノ教育の元祖、父といってもいいほどの人で、数多くの有名なピアニストを搬出してきた教育者です。
かつ、1800年代のピアニストたちに多大な影響を及ぼした人でドイツ、オーストリア、ロシアとまたにかけて幅広くピアノ教育を行っていました。
実際サンクトペテルブルグ音楽院のピアノ学部長まで勤めて、ピアノ指導をここで30年間していた時期もあり、ロシアのピアノ教育においても多大な影響力を持ち、おそらくロシアでの奏法指導の先駆者は彼であったと推測できます。
しかし、その後、T,レシェティツキはウィーンに戻り、さらに重量奏法を広く広めることとなります。
また、T,レシェティツキがロシアからウィーンに移ったときに、ロシアからウィーンにまで追っかけて指導を乞うロシア人ピアニストたちが大勢いたようで、ヨーロッパではT,レシェティツキは絶大な人気のようでした。
また、独特の重量奏法で有名なV,ホロヴィッツですが、彼はキエフ音楽院卒業で彼の先生はV,プハルスキーという先生でしたが、彼はT,レシェティツキに習っています。
単純にホロヴィッツのテクニックがT,レシェティツキーのテクニックと全く同じということはないとは思うのですが、重量奏法の基本的内容においては同じだと思います。
7.L,ゴドフスキーはT,レシェティツキと同じく、ソビエトのテクニックや音楽教育に大きい影響を及ぼしたキーマンです。
もう一人、非常に重要なキーマンがいます。それはL,ゴドフスキーです。
(なお、英語版wikipediaのLeopold Godowskyのページも参考になるのでお読みください)
L,ゴドフスキーはリトアニア人ですが、彼はピアノはほぼ独学で重量奏法(重力奏法)は自分一人でマスターしたと言っています。
ゴドフスキーが生きていた時代はまだF,リストが生きている時代であり、この頃からF,リストやT,レシェティツキなどが、すでに重量奏法(重力奏法)がヨーロッパ中に広まっていた時代なので、一人で習得することはおそらくそれほど難しくなかったように思われます。
さらにL,ゴドフスキーの弟子にはG,ネイガウスなどがいます。
つまりGネイガウスの先生はこのL,ゴドフスキーだったのです。
L,ゴドフスキーが独自にマスターした重量奏法(重力奏法)はG,ネイガウスに全て伝授したと言われており、それはのちにG,ネイガウスによって”The Art of Piano Playing”(ピアノ演奏芸術)という本を出版するに至っています。
L,ゴドフスキーはモスクワにとどまらず、ヨーロッパはもちろん、アメリカにまで演奏旅行に出かけ、のちにアメリカに永住して数多くのピアニストに指導しています。
8.ロシアの重量奏法(重力奏法)は西側のL,ゴドフスキーとT,レシェティツキが先に導入したのであって、ゴドフスキーの弟子のソビエト指導者のG,ネイガウスが発明したテクニックではない。
ということだと思います。
またG,ネイガウスは若い頃はウィーンに留学をしており、この時にL,ゴドフスキーだけでなくT,レシェティツキの弟子にも就いています。この時に間違いなく 重量奏法(重力奏法)をT,レシェティツキの弟子からも学んでいます。
その後その奏法をソヴィエトに持ち込んだと思われています。
G,ネイガウスはソビエト教育において重要人物ですが、テクニックはウィーンで学んでいたものをソビエトに持ち込んだに過ぎません。
9.L,ゴドフスキーによると1900年代初頭にはすでにヨーロッパ中において重量奏法(重力奏法)はかなり流布していた。
L,ゴドフスキーの著書によると、1900年代初頭にはすでにヨーロッパではハイフィンガー奏法はほとんど見られなくなって、ほとんどのピアニストが重量奏法(重力奏法)で弾いていたと言う記述があります。
これを単純にロシアに持ち込んだんだだけだと思います。
10.L,クロイツアーというピアニストについて
サンクト・ペテルブルグ音楽院でT,レシェティツキから重量奏法の全てを学んだ後、卒業したL,クロイツアーは人生の大半をベルリン、ウィーン、さらに日本に永住して重量奏法(重力奏法)指導を少数ながら行っています。
おそらく、クロイツァーはヨーロッパや日本においても重量奏法(重力奏法)を広めていたと思われます。(ベルリン在住の時にフジコヘミングにもピアノを指導している)
しかし残念ながら日本では重量奏法(重力奏法)はあまり流布しなかったことは非常に残念ではありました。
彼の奏法は果たしてロシア奏法なのか?それともドイツ流儀の重量奏法だったのか?
いずれにしても彼が書いた著書”芸術としてのピアノ演奏”には重量奏法が事細かく書いてあり、どちらにしても最初はTレシェティツキがロシアに持ち込み、のちにはL,クロイツアーによって、再度重量奏法は、ドイツにて教育をなされたようです。
11.W,ギーゼキングというピアニストについて
またドイツ人のW,ギーゼキングは著書「現代ピアノ演奏法」において重量奏法(重力奏法)を事細かく述べています。
驚くべきことに彼はL,ゴドフスキー同様、独学でピアノを習得したのですが、自然と重量奏法(重力奏法)をマスターしたようです。
ドイツ人のギーゼキングやクロイツアーのように、ロシア国のみならず、ヨーロッパ中に重量奏法はあったようなので、特別にロシアのみの奏法ではなかったということがわかります。
12.日本での某重量or脱力奏法、もしくは某ロシア奏法指導者は現地ロシアやヨーロッパで指導している重量奏法(重力奏法)とは全く違う独自の筋力メソッドによる筋力奏法なので要注意。かつ理解不能な指導をしています。
さて、日本で重量奏法(重力奏法)やロシア奏法という言葉で指導している人は大勢いると思います。
ロシア奏法が果たして、ロシア独特の奏法かどうかは別として、どこの教室も一応、まともな指導をしているとは思います。
しかしごく一部の某重量or脱力奏法、もしくは某ロシア奏法指導者は科学的に理解不能な指導をしており、一般的な重量奏法(重力奏法)とは全く違う独自の筋力奏法をしているので要注意です。
これ以外においても一般の重量奏法(重力奏法)とは大きくかけ離れており、脱力奏法というより『腕の筋肉による筋力奏法』と言った方が正解だと思います。
これは腕、手の筋肉(屈筋等)を酷使し、筋肉痛、腱鞘炎、ジストニアを誘発する可能性のある奏法であり、危険を伴っています。
また音色に関しても独特の持論を説明しているようです。
これらがかなり大きな問題で,かつこの教室で筋肉痛やジストニアを発症した人がこちらにきて事情を知るにあたり、これが発端となって、このページを立ち上げています。
この指導者は理解不能な指導をしており、例えば
- 手の下に手を入れて、空気をかき混ぜると劇的に音色が変化する
- 45度近い前傾姿勢で全体重を鍵盤に乗せて弾くと劇的に音色が良くなる。
- 椅子は一番高くして弾くと劇的に音色が良くなる。
- 打鍵した後であるにもかかわらず、手のひらを裏返しにするとさらに音色を変化させることができる
- 某重量or脱力奏法、もしくは某ロシア奏法で弾くとピアノの調律をしなくても、音を高くも低くもできる。
- 某重量or脱力奏法、もしくは某ロシア奏法は弾いた後で手をすぼめると音が手のひらに集まって密度の高い音色が手のひらから発音される
- 倍音、基音をマスターすれば無限な数の音色を出すことができる。
- ハンマーは弦に長時間接触して留まっていると(?)倍音が減って汚い基音になる。
- 某重量or某脱力奏法、もしくは某ロシア奏法は腕の筋肉(屈筋等)に力を入れてガチガチの状態で弾くのが正しい
- 手は「ハの字」の形をして弾くと劇的に音色が良くなる。
- ピアノはロッククライミングで鍛えるように屈筋等を強靭に鍛えなければ弾けないと指導する。
- 脇は閉めて弾くと劇的に音色が良くなる。
- 手の中からは不思議な波動が出ていて、それがエネルギーを持っていて音色を変えることができるという。
と言う指導をしています。
また音色の変化はタッチを変えると不思議にもさまざまな音色が生まれると言っています。
しかし
12B.歴代の本物の現地ロシア奏法指導者は音色の変化はタッチの違いで出るのではなく、音量の変化によるものであると公言しています。
このことについてはロシア奏法のG,ネイガウス、L,クロイツァー(サンクトペテルブルグ音楽院卒)は否定的な意見を述べています。
L,クロイツァー(1904年サンクトペテルブルグ卒業。なお2年下にプロコフィエフが在籍)
L,クロイツァー著書「芸術としてのピアノ演奏」(音色に関して)
”音の強さ以外に単音に色々の変化を与え得ると言うのは錯覚であって、ピアノの「音作り」のために特別の動作を発明し、生徒を誤らせ、若い人々を妄想に追いやる相当数のピアノ教師たちにとって、この「音作り」が人を惹きつける確かな手段となってからは、その錯覚はそれだけ危険なものになった。
おそらく「音作り」への憧れがあまりにも大きく、歌手や弦楽奏者に比べて不利な立場にある点を恥じてのことであろう”
”演奏家がピアノの音に変化を与えられる方法は二種類しかない。音の強さ及び音の長さの2点である。音色は変化させることは不可能なのである。”
”ルービンシュテインのあの歌う音は、特に自作の「メロディー」を演奏したときに有名になったが、これは旋律を特別に強く、和製の流れをその反対に非常に弱く演奏する技術を身につけていたことによるものである。旋律のみ弾いたとしても、この心理作用は起こらなかったことであろう”
(ページ136。技術編より)
G,ネイガウスは
音色にとって大事なのはデュナーミク(音量の変化)とアゴーギグ(スピードの変化)である。それ以外は存在しない。
と、述べています。
以下、ネイガウスの項目は現在作成中。
13.人間であれば最後は必ず重量奏法(重力奏法)に行き着く
何かこの奏法は特別な人が生み出して、そして特別に伝授し続けたように感じますが実際は違います。
ピアノがうまく弾けない時点で色々と考えた場合、この奏法に行き着く可能性が誰でも高いのです。
そうやって、過去のピアニストは習得してきましたし、私自身も初めのうちは師事していてもなかなか習得できなかったのですが、そのうち自分自身の独自の開発でこの奏法に行きつきました。
初めは自分の独自の奏法になったと勘違いしていましたが後で、結局どのピアニストもこの奏法を使っていると気がついた時は、色々と納得しました。
どんなスポーツでも最後は効率よく体を使うことに到達することとあまり差がありません。