不思議に思えるかもしれないが、実は私は過去に2度ほどピアノを辞めていた時期がある。
一度目は中学生の頃。約2年半、辞めていたのだ。
次に25歳〜29歳の頃。この頃はピアノ指導で仕方なくピアノを弾くことがあっても自らピアノには触れていない。ほとんど4年間ピアノを弾かなかったと言って良いだろう。
初めの中学生の時にはピアノに対して楽しさというものがわからなくなってきた時期といって良いだろう。
そりゃそうだ。音大を意識し初めることになるとどうしてもきつい練習が多くなる。
なんたって曲は小学生にとって理解出来ないバッハの平均率にベートーベンソナタばっかり。
全くもってつまらない。(ちなみにこの頃の影響があって未だにバッハとベートーベンは好きになれない)
その結果、中学生はピアノをやらずに部活に専念して(しかも陸上部の長距離選手!)楽しく中学生仲間と生活をエンジョイしていたのだ。
続いて20代後半はこのままピアノなんか続けても良いのだろうか、という不安により自らピアノを辞めて転職を模索していた時期である。
もちろんこの頃は精神的にもピアノを弾くことが辛くなり、表現をするということができなくなってきた時期だった。
この二つの時期に共通していることは、ピアノが面白くなくなっていたということだろう。
環境の問題もある。もし音楽中学(?)にでも通っていたら、中学生の時には意外と面白く続けていたかもしれない。
音楽大学に入った時には「なんて音楽は面白いんだろう!」と思ったものだった。
この当時は学校の音楽関係の書籍を片っ端から読みあさり、ライブラリー室のほとんどのピアノ関係のレコードやCDを聞いたのではないかと思う。
貧乏学生にお金はなくともライブラリー室のレコードと書籍はただなのだから。
貧乏な当時、自動販売機の一杯80円の紙コップコーヒーを3人の友人とわけ合って飲んだり、大学近くの行きつけの激安ラーメン屋で1杯100円というラーメンを「なんてまずいんだろう」と思いながら食べていた頃を思い出す。
ちなみに自分が食べ終わったラーメンをテーブルにおいておくとさらに友人が「そのスープちょうだい」と言って飲み干してしまうといった貧乏学生達だった。
学生食堂ではリッチなピアノ科の女子学生達が食べる高価で豪華な定食ランチを横目に「いつか出世したらあの豪華ランチを食ってやる!」と思いながらいつもの260円ナポリタンスパゲッティかピラフを食べていたものだった。
ちなみについ最近久しぶりに大学に用があって行った時に学生食堂に入ってみた。
メニューは何と!、昔ながらのナポリタンスパゲッティとピラフが20円上がっただけで、健在しており、懐かしい気持ちになったが、一方その豪華ランチはたったの530円であった。
いったいあの頃の俺は、いかほどのビンボー学生だったのだろうか?
ほんのわずかに話がそれたが、自分が中学生、そして20代後半の時にピアノを辞めていたことは、結果的には自分にはプラスになっていたかもしれない。
多分辞めていた時期が自分にとってストレスのリセットになっていたと思う。
辞めていなかったら精神的におかしくなっていたかもしれない。
しかし、辞めるタイミングを間違えると間違いなく精神的にダメージを負うことになる。
事実、精神的にダメージを負ってしまった生徒を今まで何人か見ている。
特に最近の子供は傾向としてあるのかどうかわからないが、意外と簡単にダメージを負う生徒が多い。
まあえてして真面目な生徒が多いかもしれないが。
真面目なためにがんばり過ぎてしまうのだ。そしてその行き過ぎた時期を生徒も親も先生も見逃してしまう事が時々ある。
そして主に共通している事がある。
この真面目に頑張っているのは決して自分自身のためではなく、実は親や先生のために自分の限界を超えて頑張っているという事が多いのだ。
親や、先生の期待に背かないために、絶対に裏切ってはいけない!という真面目さが自分を追い込んでしまう。
これが原因となって後から様々な現象、病気となって出てくるのだ。
こうなるともう手遅れである。一旦ピアノを辞めなければいけない。
しかもこれが何年、もしくは何十年続くかわからない。
今現在、私の生徒にもこうして休会する生徒がいた。
しかもこれがまずかったことに音楽大学の受験が近くなった時に、始まってしまったのだった。
えてして、こういう生徒は断トツににうまくて真面目な生徒が意外と多い。なので周りはけっこう、こけるのだがしかたがない。
本人にたっぷりとリハビリに入ってもらうのだ。
考えてみれば、私の時の場合も、もう少し先生の指導内容と親の方針がましであれば、2年半も止める事にはならなかったのではないかと思う。
どうやったら、辞めるなどという現象をおこさずに上達させられるか?
おそらく何らかの徴候、及びサインがあるだろう。
あるいは指導者の方針や導き方にもあるだろう。
そして、もっと生徒自身も身勝手になれば良いのだ。
ブリっこなんかしていないで、たまには不良になれば良いのではないか?